appreciation 蒼き批評
情事 1965・10・07


情 事


「情事」は今から二年半ぐらい前に一度見ていた。その時は、退屈であくびが出て困ったが、今回は一度も出ずに最初から引き込まれた。「情事」も他のアントニオーニの作品と同じように、ファーストシーンからアントニオーニを感じさせる。

この映画はブルジョワ階級の出来事を描いているが、フェリーニの「甘い生活」よりかは純粋に「愛」という主題に入り込んでいると思う。

この映画がカンヌ映画祭に出品された時、賛否両論に分かれやっと「明日の映画芸術の為に」ということで、審査員特別賞をもらったが、明日の映画芸術ではなくまさに今日の映画芸術である。今までの常識的な映画ではない、傑作の「大いなる幻影」にしたところで、「情事」の映画芸術の表現と比べると何と文学的なのであろうか。「情事」はまさに、映画芸術そのものであり、そのもの以外ではあり得ないのである。

「情事」の主人公は三人である。建築家のサンドロとその恋人アンナとその友人クラウディアである。アンナとクラウディアはヨットで旅行に出かける途中にサンドロを迎えに行く。アンナはクラウディアを外に待たしたまま、サンドロと情事にふける。その場面で二人が抱き合っているとその窓からはるか向こうにクラウディアがこちらを見ていて、次のショットでクラウディアの方から写す所や、クラウディアが待ちくたびれてぶらぶらする「直接意味の無い場面」などアントニオーニ独特のシーン展開で画面の中に導いていく。

ヨットの中には三人の他ブルジョワジーの人々が4,5人いた。荒涼たる岩礁の島でアンナが居なくなる。海に落ちて死んだか、隠れているのか分からない。これは最後まで分からないのである。

結果などは、この映画にとってはどうでもいい事なのだ。ただ居なくなったという事実を受け止めれば良いのである。この点だけでも従来の映画と本質的に異なり、まさにアントニオーニである。

最初からアントニオーニのこの映画は、最後もアントニオーニで終る。

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